次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。( 3 点) 私が半年ほど入院した。同じ病室に、完全に寝たきりになっていた Kさんという人がいました。彼の毎日の楽しみは、看護婦さ んに「息子から電話があったでしょうか」と尋ね、「あったわよ」と看 護婦さんの返事を聞くことでした。当初私は、①おやじ(父親)の 病状を毎日のように電話で尋ねてくるいい息子さんだなあと感心 しながら、Kさんと看護婦さんのやりとりをベッドの上で眺めてい ました。 ところが、 ②それがうそであることが、しばらくして分かりまし 女。息子さんからの電話はなく、看護婦さんたちが、かかってきた かのように演じていたのです。それはKさんを励まし、希望を持 たせるために、③看護婦さんたちがついた精いっぱいのやさしい うそでした。そして、悲しいうそでした。というのは、Kさんが入 院した当初は、本当にその息子さんから毎日のように病院に電話 があったそうです。トラックを運転していた彼は、仕事で全国を走 り回っていたため、直接病院に見舞いに来られなかったのです。入 院して以来Kさんは、何度か危険な状態になったことがあったそう です。④そのたびに、看護婦さんが、「息子さんから電話がかかっ ているのよ」と声をかけると、不思議にすぐ治ったというのです。 そんなある日、病院に悲しい電話が入りました。交通事故で、 K さんの息子さんが亡くなったという知らせでした。もちろんKさ んの病状を心配して、⑤そのことは知らせないことにしたそうで す。そしてその日から、看護婦さんたちの⑥幻の電話が始まった のだそうです。 しかし、そんな看護婦さんたちのうそも長く続きませんでした。 Kさんは日ごとに様子か'悪化し、別れか'近づいたころは、まるで看 護婦さんたちの幻の電話を知っていたかのように、ただ「ありがと う、ありがとう」を繰り返すばかりでした。Kさんの遺体が病室を 出て、廊下をエレべ一ターに向かう途中、ナースステーションの前 を通り過ぎたところで、突然「リーンリーン」という電話のベルが 鳴り、一瞬みんなそこに⑦立ち止まってしまいました。そして鳴 り響くそのべルの音を聞きながら、看護婦さんたちがボロボロ涙 を流していた光景を10年近くたった今でも鮮明に思い出します。 【問1】①「おやじ」とはだれか。
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